
AIオーケストレーションとは?仕組み・設計方式と導入でつまずかない進め方
2026.10.16公開
株式会社Laboro.AI編集
概要
生成AIを部門単位で導入する企業は増えたものの、AIを複数の事業部門へ本格展開できた組織は限られています。Gartnerの調査※1では、部門リーダーの85%が2026年にAI関連支出を増やす予定と回答しています。一方で、AIを複数の事業部門にわたって本格展開した、またはAIファーストのアプローチを採用した組織は22%にとどまりました。
ツールは増えたのに全社的な成果に結びつかない——この行き詰まりから抜け出す方法として検討されているのが、AIオーケストレーションです。AIオーケストレーションとは、役割の異なる複数のAIを1つの業務フローとして束ね、工程の受け渡しまで含めて自動で進める仕組みを指します。ただし、束ねる範囲を広げるほど設計と運用の負荷がかかるため、どこまでを自動で進めるかの判断が成果を左右します。
本記事では、AIオーケストレーションの仕組みと類似技術との違い、設計方式の選び方、そして最初の1業務から全社へ広げるまでの手順を紹介します。
この記事の要約
- AIオーケストレーションは複数のAIを1つの業務フローとして束ね、工程の受け渡しまで自動化する仕組み
- AIエージェントが実行役なら、AIオーケストレーションは配分と統合を担う統括役
- AIを複数の事業部門へ本格展開できた組織は22%にとどまり、部門ごとの導入では動作ログや権限の管理が分散しやすい状態
- 設計方式は中央集権型と階層型の2種類で、自律の度合いは人の承認をどこに置くかで決まる
- 導入でつまずく要因はデータ未整備・業務プロセスの未整理・権限設計の欠落・運用費の積み上がり
目次
・AIオーケストレーションとは
・単体の生成AI・AIエージェント・RPAとの違い
・AIオーケストレーションが向く業務領域
・AIオーケストレーションが生む3つの効果
・AIオーケストレーションの設計方式
・AIオーケストレーションの導入でつまずく4つの要因
・最初の1業務から広げる4つの手順
・まとめ
AIオーケストレーションとは
AIオーケストレーションは、3つの要素で構成されています。1つ目は工程を分解して担当を決める統括の仕組み、2つ目は割り振られた工程を実行する個々のAI、そして3つ目はAIと社内データ・外部システムをつなぐ接続の仕組みです。
| 構成要素 | 担う機能 |
|---|---|
| オーケストレーター | 目標を工程に分解し、担当するAIへ割り振る |
| 各AIエージェント | 与えられた工程を専門領域で実行する |
| RAG・API連携 | 社内データと外部システムを入出力でつなぐ |
オーケストレーターが工程を分解して割り振る
オーケストレーターは受け取った目標を工程に分解し、どのAIに何を任せるかを決めます。問い合わせ対応であれば、問い合わせ内容を分類するAI、社内規程を検索するAI、返信文を作るAI、点検するAIが順に動き、業務の担当者は最後の承認だけを担います。ただし、どの工程を通るかは入力によって変わります。たとえば定型的な質問なら規程検索を省くこともあります。この柔軟さと引き換えに、動きのパターンが増えるため、事前に確認すべき動作の数も増えます。
RAGとAPI連携が各AIの入出力をつなぐ
RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)は、AIが回答を生成する際に、在庫データベースや社内規程集などから関連情報を検索し、その情報を参照して回答を作成する仕組みです。API(Application Programming Interface)連携は、AIが基幹システムのデータを読み書きできるようにする仕組みです。AIに任せられる業務の広さは、どのシステムにつなげるかで決まるため、導入前に「どの業務でどのデータが必要か」を洗い出しておくことが重要です。
各AIエージェントが割り振られた工程を実行する
各AIエージェントは、オーケストレーターから渡された工程だけを担います。文書の読み取り、社内規程の検索、返信文の作成のように担当範囲を分けておくと、1つのAIエージェントに与える指示が短くなり、工程単位で出力を点検できます。
単体の生成AI・AIエージェント・RPAとの違い
AIオーケストレーションは生成AIの延長線上にある技術と捉えられがちですが、工程の配分と結果の統合を担う点で役割が異なります。
| 比較対象 | AIオーケストレーションとの違い |
|---|---|
| 単体の生成AI | 1回の入出力で完結し、工程の受け渡しは人が行う |
| AIエージェント | 個々の工程を実行する側で、統括は別の仕組み(オーケストレーター)が担う |
| RPA(Robotic Process Automation) | 手順が固定された定型処理を担い、判断を伴う工程は範囲外 |
単体の生成AIは工程の受け渡しが人任せ
単体の生成AIでは、提案書作成のように調査・競合整理・執筆・体裁調整と工程が続くたびに、担当者が次の指示を入力します。AIオーケストレーションは、この受け渡しをソフトウェア側で完結させる仕組みです。ただし、工程数が少なく受け渡しの手間が小さい業務であれば、単体の生成AIでも十分に対応できるケースもあります。
AIエージェントは実行役、統括役が別にいる
AIエージェントとは、与えられた目標に対して自ら次の行動を決めながら処理を進めるAIです。一方、AIオーケストレーションは、複数のエージェントを組み合わせ、どのエージェントをいつ動かすかを調整する仕組みです。この調整を担うのが統括役(オーケストレーター)で、各エージェントは実行役として割り振られた工程を担当します。
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RPAは手順が固定、判断を伴う工程は苦手
RPAは、決められた手順を繰り返す定型処理が得意です。毎朝決まったフォルダからファイルを取得して転記する作業なら、安定して動きます。ただし、例外的な入力が混ざると、判断ができず処理が止まることがあります。
工程ごとの使い分けは次のとおりです。
- 手順が固定された定型処理:RPA
- 入力に応じた判断を伴う工程:AIエージェント
- 単発の質問への回答や要約:単体の生成AI
AIオーケストレーションが向く業務領域
効果が見えやすいのは、工程が複数にまたがり、それぞれの判断基準を言葉にできる業務です。代表的な3つの領域を整理します。
問い合わせ対応
テキスト化→分類→回答作成→点検までを自動化することで、担当者の作業を最終確認に絞れる可能性があります。判断が割れる案件については、途中で人へ引き渡す経路を用意しておくことが望ましいです。
需要予測と在庫管理
予測値からの発注量の算出、在庫更新、欠品商品の広告停止までを、人の判断を挟まずに動かすことも可能です。
【関連】需要予測AIよ、需要は予測するものでなく作るものだ。
社内ナレッジの活用
AIが規程集・問い合わせ履歴・議事録・製品資料を横断して回答を作れます。ただし参照先が増えた際、どの情報が最新かを判定する仕組みが伴わないと、古い記述を引いた回答が混ざる可能性があります。
AIオーケストレーションが生む3つの効果
AIオーケストレーションの導入で得られる効果は、処理そのものの質に関わるもの、構成の柔軟性に関わるもの、統制に関わるものの3つに分かれます。
| 効果が出る側面 | 変わること |
|---|---|
| 処理の質 | 専門特化したAIの分業で、精度と処理速度が同時に上がりやすい |
| 構成の柔軟性 | AIの追加・入れ替えをしても、業務フロー全体を作り直さずに済む |
| 統制 | 動作ログが1か所に集まり、監査と引き継ぎの材料になる |
専門特化したAIの分業で精度と速度が上がる
読み取り、要約、点検を別のAIに分けると、1回あたりの指示が短くなり、1つのAIに全部を任せるより出力が安定しやすくなります。依存関係のない工程は並行して動かせるため処理時間も短くなりますが、工程を分けられず、1つの判断で完結する業務では、分業の効果は出にくくなります。
AIの追加・入れ替えが設定変更で済む
手を入れるのはオーケストレーター側の割り振り設定だけで、業務システムとの接続部分はそのまま残るため、エージェントが使うAIを差し替えても業務フローは作り直さずに済みます。ただし、接続の仕様が製品ごとに異なる場合、差し替えのたびに変換処理の追加が必要になります。
動作ログの一元管理で監査と引き継ぎに効く
どのAIが何を判断したかの記録が1か所に集まることは、部門ごとの個別導入では得にくい効果です。総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン」※2 では、検証可能性の確保のためログの記録・保存を求めています。処理の流れと各工程の出力が残っていれば、担当者が替わったあとも判断の過程をたどれます。
AIオーケストレーションの設計方式
複数の業務システムと接続する構成を前提に、選択肢を整理します。
| 設計方式 | 向いている状況 |
|---|---|
| 中央集権型 | 統制と処理の流れの追跡を優先したい業務 |
| 階層型 | 部門や業務単位で責任範囲を分けたい組織 |
中央集権型と階層型で統制の置き方が変わる
中央集権型は1つのオーケストレーターが全工程の割り振りを持つ構成で、追跡と権限管理を一本化できる一方、業務範囲が広がると設定変更が他業務へ波及しやすくなります。
階層型は上位のオーケストレーターが業務単位の下位へ目標を渡す構成で、業務ごとに担当部門が設計と運用を持てますが、部門ごとに運用がばらつきやすいです。
人の承認を挟む位置で自律の度合いが決まる
AIの処理の途中に人の確認や承認を組み込む設計の考え方を、ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop、HITL)と呼びます。承認を置く位置によって、AIがどこまで自律的に動くかが決まります。たとえば、顧客へ送る文面の直前だけに承認を置く、金額が一定を超える発注だけ人が確認する、といった形で範囲を絞れば、人の負担を抑えながら重要な判断を確認できます。
AI事業者ガイドライン※2 では、AIの出力が公平性を損なわないよう、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を推奨しています。その際は、AIの出力を無批判に受け入れてしまう「自動化バイアス」に、人間の判断が左右されないための対策も求めています。
AIオーケストレーションの導入でつまずく4つの要因
AIオーケストレーションの導入でつまずく要因は、データ、業務プロセス、権限、運用費の4つに集約されます。
| つまずく要因 | 先に手を打つこと |
|---|---|
| 連携元データの未整備 | 在庫・顧客・規程のデータ品質と更新頻度をそろえる |
| 業務プロセスの未整理 | 工程と判断基準を書き出し、暗黙の手順を明文化する |
| 権限設計の欠落 | 各AIのアクセス範囲を業務上必要な範囲に限定する |
| 運用費の積み上がり | 工程ごとに使うモデルを分け、費用を工程単位で追う |
連携元のデータが整っていないと精度が出ない
在庫データの更新が1日1回であれば、どれだけ高性能なモデルを並べても判断の鮮度はその更新頻度で頭打ちになってしまいます。整備が追いつかないうちにつなぐ工程を増やすと、誤りの伝播先も増えてしまいます。
業務プロセスが未整理だと設計に入れない
誰がどの順で何を見て決めているかが担当者の頭の中にある状態では、オーケストレーターに渡す指示を書き起こすのは難しいです。Gartnerのアナリスト※1 は、日本企業で「期待したほどの効果が得られていない」という声が少なくない背景として、AIを導入すれば生産性が向上するという安易な期待や、AIを活用するための組織文化・業務プロセスが十分に整っていないまま導入を進めたことを挙げています。一方で、こうした課題を抱える企業が多い中でも、AIエージェント・プラットフォームを企業共通の基盤として整備し、業務そのものを変えていこうとする動きも急速に広がっていると指摘しています。
権限設計を省くと情報漏えいや誤更新につながる
アクセス範囲を決めないまま接続すると、想定外の情報まで参照される経路ができます。書き込み権限を持つAIエージェントが判断を誤れば、出力の誤りにとどまらず、データの書き換えまで起こりえます。
AI事業者ガイドラインでは、AIシステムを提供する事業者に対し、個人情報へのアクセスを管理・制限する仕組みの導入を求めています。
AIエージェントが増えるほど運用費が積み上がる
工程を5つに分け、工程ごとに1回ずつ呼び出す場合、1件あたりの推論回数は単体利用の5倍程度が目安です。再実行が起きれば、さらに増えます。Gartnerの調査※1 では、2025年の自部門のAI費用を全く把握していない組織が約11%あったとの結果も報告されています。
工程ごとにモデルを使い分け、費用を工程単位で追える形にしておくことをおすすめします。
最初の1業務から広げる4つの手順
AIオーケストレーションの導入を全社的に拡大するための要点は、対象を1業務に絞り、測り方と戻し方を決めてから動かすことです。着手から拡大までを4つの手順で追います。
| 手順 | 決めること |
|---|---|
| 手順1:工程の洗い出し | どの作業とどの作業をつなぐと待ち時間が消えるか |
| 手順2:指標と戻し方 | 何をもって効果とするか、失敗時に誰へ引き渡すか |
| 手順3:PoC | 1業務に絞り、指標の変化を実データで確かめる |
| 手順4:拡大 | ツールと運用担当を決め、対象業務を段階的に広げる |
手順1:つなぐ工程の組み合わせを洗い出す
最初に探すのは、AIを入れる場所ではなく、作業と作業の間で止まっている待ち時間です。見積の作成と与信の確認、問い合わせの分類と社内文書の更新のように、片方の結果がもう片方の入力になる組み合わせが候補になります。
手順2:評価指標と失敗時の戻し方を決める
効果の測り方と、処理が失敗したときの戻し方は、設計より前に決めておくことをおすすめします。指標には、どの水準に達したら次の業務へ広げるかという基準も含めておくと、手順4で拡大の判断に迷いません。
例)
・指標:削減できた工数、再実行の発生率、人が引き取った件数など、運用後に数えられるもの
・戻し方:エラーが出た工程を再試行するか、前の工程まで戻すか、人へ引き渡すか
Gartnerの調査※1 では、AIの投資対効果を継続的に追跡し、施策を定期的に評価して成果の低いものを再配分または中止している高パフォーマンス企業で、AI施策の81%がプラスのリターンを生み出していました。
手順3:1業務に絞ってPoCで効果を確かめる
検証の対象は、手順1で洗い出した組み合わせのうち1つに絞ります。複数を同時に試すと、成果が出たときも出なかったときも、どの要素が効いたのかを切り分けにくくなります。1つの流れを実データで動かし、手順2で決めた指標がどう動いたかを記録したうえで、次の対象を選びます。
手順4:開発手段と運用体制を決めて対象を広げる
開発手段を選ぶ際は、既存の社内システムと連携できるかどうかが重要な判断基準になります。プログラムで組む開発フレームワークは細かく作り込める反面、工数がかかります。一方、画面の設定で組むノーコード型の基盤なら、短期間で検証を回せます。どちらを選んでも、業務の判断基準をAIへの指示に置き換える作業は残るため、業務に詳しい担当者を設計段階から加えることが重要です。
【関連】AIエージェントの作り方とは?基本から実践的な活用事例までを徹底解説
運用体制では、設定変更と動作確認を担う運用担当と、判断基準を持つ業務担当の役割を分けておきます。
対象を広げる際は、手順2で決めた基準に指標が達した業務から1つずつ追加します。接続部分とログの仕組みは最初の業務のものを使い回し、権限は業務ごとに必要な範囲を見直します。新しい業務で主に作るのは、工程の割り振りと判断基準です。業務が増えて1つのオーケストレーターで管理しきれなくなったら、階層型への移行を検討します。
まとめ
AIオーケストレーションで成果を分けるのは、技術の選定よりも、どの工程をつなぐか、どこに人の承認を置くか、失敗したときにどこへ戻すかという設計側の判断です。導入でつまずく要因も、データ、業務プロセス、権限、運用費という組織・運用側の論点に集約されます。
自社の業務は部門ごとに異なる手順と暗黙の判断基準を抱えており、汎用的な構成をそのまま当てはめるだけでは、適切な工程の切り分けはできません。どこから手をつけるかの見極めには、業務そのものを設計し直す視点が重要です。
Laboro.AIは独自メソッド「ソリューションデザイン」で個社ごとの業務課題からカスタムAIを設計し、マルチエージェント構成の技術基盤をもとに業務フローの見直しまで伴走しています。自社での運用設計に不安がある場合は、ぜひご相談ください。
【参考】プレスリリース:Gartner、AIを複数の事業部門にわたって本格的に展開できている組織は22%にとどまるとの調査結果を発表
【参考】 AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編
執筆者
Laboro.AI編集部
株式会社Laboro.AIの独自技術や最新のAIに関する情報をお届けします。
この記事に関わった人
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株式会社Laboro.AI エンジニアリング部 リードMLリサーチャー
自然言語処理、機械学習、ナレッジグラフを中心とした研究に従事。これまで複数のオープンソースのデータセットとモデルの構築に貢献してきた。最近の研究ではLLMの実社会への応用を探求し、学術研究と実際のユースケースの橋渡しに情熱を注いでいる。
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サンプルのプロフィール文です。 2行目です。
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株式会社Laboro.AI 執行役員CBO(最高ブランディング責任者)
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。