
商品開発・商品企画にAIをどう活かす?市場調査を軸にした実践アプローチ
2026.9.7公開
株式会社Laboro.AI 執行役員CBO(最高ブランディング責任者) 和田 崇
株式会社Laboro.AI編集部
概要
「AIで商品開発の期間が9割短縮」「企画時間を最大90%削減」——商品開発や商品企画とAIを掛け合わせた記事を検索すると、こうした華々しい数字が並んでいるのを目にした方も多いのではないでしょうか。数字自体は魅力的ですが、どの工程で、何をどう変えたことで実現した数値なのかまで踏み込んで説明している記事は、実はそれほど多くありません。
この記事では、商品開発・商品企画のどの工程にAIが入り込みやすいのかを整理したうえで、業界事例に見られる効果数値との向き合い方を解説、そして私たちLaboro.AIがカスタムAI開発とAI市場調査サービスの提供を通じて得た知見をお伝えします。
後半では、Laboro.AIが展開している、調査フェーズのあり方を変えるAIシミュレーション調査「未来リサーチ」でできること・できないことについても、実務で判断に使える形で紹介します。
目 次
・商品開発・商品企画におけるAI活用の全体像
・業界事例に見るAI活用の広がりと、数値を読み解く視点
・導入のメリットと注意点
・小さく始めるための導入ステップ
・【Laboro.AIの視点】“勘と経験”から“データ仮説検証”型の商品企画へ
・まとめ:AIは商品開発の「仮説検証」を加速する相棒
商品開発・商品企画におけるAI活用の全体像
商品企画と商品開発、AIが担う役割の違い
「商品企画」と「商品開発」は、企業や部門によって指す範囲が異なる言葉です。一般的には、商品企画は市場機会の発見からコンセプト立案までの初期段階を指すことが多く、商品開発はそこから試作・検証・市場投入までを含む、より広い活動を指すとされています。両者は明確に切り分けられるものではなく、実務では行き来しながら進むことがほとんどです。
AIとの関わり方も、この2つの段階でやや性質が異なります。商品企画の段階でAIが担うのは、主にアイデア創出の補助や市場・消費者理解のための調査データの整理です。一方、商品開発の段階に進むと、設計・試作の効率化や、量産前の品質検証といった、より技術的な工程にもAIの活用範囲が広がっていきます。どちらの段階でAIを使うかによって、期待できる効果も、注意すべきリスクも変わってくるという点は、押さえておきたいポイントです。
【関連記事】商品開発におけるマーケティングとは?基本プロセスとAI活用で変わる進め方
AIが入り込みやすい主な工程
商品開発・商品企画の一連のプロセスの中で、現在AIの活用が進みやすいのは、大きく分けて「市場調査・アイデア創出」「設計・試作」「マーケティング展開」の3つの工程です。
市場調査・アイデア創出の工程では、生成AIに競合情報や消費者の声を読み込ませて傾向を整理させたり、複数のコンセプト案をたたき台として出させたりする使い方が広がっています。
設計・試作の工程では、画像生成AIによるパッケージデザイン案の作成や、過去の実験データをもとにした配合・仕様のシミュレーションなどが実務に取り入れられ始めています。
マーケティング展開の工程では、訴求コピーの案出しや、ターゲットセグメントごとの反応予測にAIを使う動きが見られます。
これらの工程に共通しているのは、「AIがゼロから正解を出す」のではなく、「人が判断するための材料を、AIが素早く・数多く用意する」という役割分担です。この前提を見誤ると、AIの出力をそのまま採用してしまい、後述するようなリスクにつながりやすくなります。

業界事例に見るAI活用の広がりと、数値を読み解く視点
頻出する活用パターン(飲料・食品業界を中心に)
商品開発・商品企画へのAI活用事例を調べていくと、飲料・食品業界の事例が特に目立ちます。醸造データや配合データの分析にAIを活用し、少量多品種の商品開発ニーズに対応しようとする取り組みや、味覚データと消費者の嗜好データを組み合わせて新商品のレシピ候補を絞り込む取り組みなど、各社が独自に技術検証を進めている様子がうかがえます。
小売業界でも、購買データをもとにした需要予測や、商品企画の初期段階でのアイデア出しにAIを取り入れる動きが広がっています。これらは業界特性上、扱うデータの構造化がしやすく、AIによる分析と相性がよい領域だといえます。
一方で、化粧品や日用品、BtoB向けの産業財のように、感性評価や現場での使用感が重視される商品カテゴリーでは、AIが代替しにくい工程が相対的に多く残っているという実情もあります。
効果数値を評価する際に押さえておきたい視点
商品開発・商品企画とAIをテーマにした記事の多くが、「開発期間◯%短縮」「企画時間◯割削減」といった効果数値を掲げています。IDCが2026年3月に発表した「Worldwide AI and Generative AI Spending Guide 2026V1」では、国内AI市場支出額は2025年に2兆3,725億円から、2029年に2.9倍の6兆8,897億円に急成長と記載されており、こうした勢いを裏付けるデータとして紹介されること自体は自然な流れです。
ただし実務でこれらの数値を参考にする際には、いくつか確認しておきたい視点があります。
1つ目は、その数値がどの工程・どの業務範囲を対象にしたものかという点です。「商品開発全体が9割短縮」なのか、「特定のレポート作成作業が9割短縮」なのかでは、意味合いがまったく異なります。
2つ目は、出典の有無です。調査会社名や一次資料へのリンクが明記されている数値と、社名非公開の「A社」「B社」の事例や、出典不明のまま複数の記事で使い回されている数値とでは、信頼度の重みが異なります。
3つ目は、その数値が公表された時点の前提条件(対象企業の規模、使用したAIツール、比較対象とした従来手法など)が、自社の状況と近いかどうかです。
数値そのものを否定する必要はありませんが、「どの工程の、どんな比較条件での数値か」まで確認したうえで参考にする姿勢が、実務での判断ミスを防ぐことにつながります。
導入のメリットと注意点
商品開発・商品企画にAIを取り入れるメリットは、1つひとつの作業が速くなることだけではありません。先に挙げた3つの工程のいずれにおいても、これまで工数の制約から見送っていた検討に着手できるようになる点が、実務上の大きな変化です。
市場調査・アイデア創出の工程では、少人数のチームでも、これまでなら1案しか出せなかったところで複数のコンセプト案を並行して検討できるようになります。設計・試作の工程では、仕様やデザインの選択肢を早い段階で形にして見比べられるようになり、後工程での手戻りを減らせます。マーケティング展開の工程でも、訴求軸ごとの反応をあらかじめ見立てたうえで施策を組み立てやすくなります。共通しているのは、「これまで工数の制約で切り捨てていた選択肢を、検討の土俵に載せられるようになる」という点です。
一方で、注意すべきリスクも存在します。
1つ目は、データの偏りです。AIが学習・参照するデータに偏りがあれば、出力される分析結果やアイデアにもその偏りが反映されます。
2つ目は、創造性の画一化です。多くの企業が同じような生成AIツールを同じような使い方で活用すると、似通ったコンセプトやコピーが量産されやすくなるという指摘もあります。
3つ目は、AIへの過度な依存です。AIが出した分析結果やアイデア、予測をそのまま意思決定に採用してしまうと、もっともらしく見える出力が、実態から離れた判断を後押ししてしまう危険もあります。
これらのリスクへの向き合い方として私たちが重視しているのは、「AIで選択肢を素早く広げ、絞り込むところまでを担わせ、重要な意思決定は精度を確認しながら人が行う」という役割分担です。AIと人がどう協働すべきかという考え方については、コラム「答えのない、マーケティング×AIの世界への挑戦」でも掘り下げていますので、関心のある方はご参照ください。
小さく始めるための導入ステップ
AI活用というと大企業の専売特許のように語られがちですが、商品開発・商品企画におけるAI活用は、体制が小さい企業でも段階的に始めやすい領域です。おおむね次のようなステップで進めると、無理なく着手できます。
- AIに任せたい問いを1つに絞り込む:「競合や消費者の動きを早く把握したい」「新商品のアイデアの幅を広げたい」「複数の案のうちどれが響くかを知りたい」など、どの工程の、どんな作業をAIに任せたいのかを具体的に言語化する
- 小さく・安く試せる手段を選ぶ:手元の生成AIによるデスクリサーチやアイデア出し、画像生成AIによるデザイン案の試作から始めるか、複数案の受容性を比較したい場合はAIシミュレーション調査のような専門サービスを検討する
- 人が確かめるプロセスを組み込む:AIの出力をそのまま使わず、必要に応じて一次情報と照合したり、現場の目で妥当性を判断したりするステップを設ける
- 社内で共有し、意思決定につなげる:得られた知見を関係者間で共有し、次の判断に反映する
- プロセスに定着させる:うまくいった使い方を型として自社の商品開発プロセスの中に組み込み、継続的に活用する
自社だけでは進め方に迷うという場合、AIソリューション設計から伴走支援を行う「ソリューションデザイン」のような外部の知見を借りるというのも、1つの現実的な選択肢です。
【Laboro.AIの視点】“勘と経験”から“データ仮説検証”型の商品企画へ
ここからは、私たちLaboro.AIが、カスタムAI開発とAI市場調査サービス「未来リサーチ」の両方を手がける立場から見えてきた視点についてお話しします。
ここまで見てきたとおり、AIが入り込める工程は商品開発・商品企画の全体に広がっています。その中でも私たちが特に効き目が大きいと考えているのが、市場調査を軸とした「仮説検証」の工程です。以降は、この点に絞ってお伝えします。
市場調査の精度とスピードが企画の質を左右する理由
商品企画の現場でよく起きるのが、「本当は複数のコンセプト案を市場でテストしてから絞り込みたいが、調査に数週間かかるため、スケジュールの都合で仮説のまま次の工程に進んでしまう」という判断です。これは特定の企業の努力不足というより、市場調査が構造的に抱える時間とコストの制約に起因するものだと私たちは考えています。
この制約が緩和されれば、複数のコンセプト案を並行して検証したり、企画の初期段階で「そもそも需要があるか」を素早く確認したりすることが可能になり、“勘と経験”に頼らざるを得なかった判断の一部を、データに基づく仮説検証に置き換えられます。AIによる商品企画支援というと、アイデア創出の自動化に注目が集まりがちですが、私たちはむしろ、この「仮説検証の高速化」こそが、商品企画の質を底上げする効き所だと捉えています。
AIシミュレーション調査でできること・できないこと
私たちが提供する「未来リサーチ」は、生成AI・LLM(大規模言語モデル)の推論力を用いて、消費者の反応をシミュレーションする市場調査サービスです。
従来の委託調査で数週間かかっていた検証を、最短3営業日規模まで短縮できる点を特徴としています。実際に、大手小売企業様との共同検証では、446商品分の実査データとAIによる出力結果を比較したところ、平均誤差2.24%、判定精度92.4%という結果が得られており、精度と速度を両立させるための技術検証を重ねています。

【参考】大手企業との共同検証結果
ただし、AIシミュレーション調査はあらゆる調査テーマに使えるわけではありません。新商品開発のプロセスに沿って整理すると、以下のような向き・不向きが見えてきます。
| 商品開発のフェーズ | AIシミュレーション調査が向くテーマ | 実施が難しいテーマ |
|---|---|---|
| 市場・消費者理解 | ペインポイント調査、市場規模・需要調査、競合商品の比較調査 | 特になし |
| コンセプト開発・評価 | PSM調査(価格感度)、セグメント別ニーズ調査、コンセプト受容性・選好調査 | 特になし |
| 製品設計・試作 | 仕様案・パッケージ案への選好調査 | 官能評価(味覚・嗅覚・触感)、使用感テスト |
| テスト販売・発売後 | 購買意向調査、満足度・NPSの定期追跡 | 店頭での購買行動観察、想定外の使われ方の発見、離脱理由の深掘り |
表の右列に挙げたような、「実際に触れる・食べる・使う」という体験を伴う評価や、「なぜそう行動したか」という文脈の深掘りは、現時点のAIシミュレーション調査では再現が難しい領域です。
逆に、不特定多数の消費者に対して意向・選好・心理を問う定量調査は、AIとの相性が高い領域だといえます。この線引きを事前に理解したうえで使い分けることが、AI市場調査を商品企画に活かす前提になります。
もう1つ、意外と知られていないのが、LLM特有の「回答のクセ」です。私たちが技術検証を重ねる中でも、LLMは人間が好む回答パターンを学習しているため実際の調査より前向きなスコアを出しやすいこと、調査テーマによって精度の傾向が変わること、学習データが英語圏中心であるために日本人らしい回答が出にくいことなどが確認されています。「未来リサーチ」では、こうしたクセを学術的な知見とカスタムAI開発で培った技術をもとに制御する仕組みを取り入れています。
AIシミュレーション調査の技術的な仕組みや、市場調査全般におけるAI活用のより詳しい解説は、別記事「市場調査にAIを使う【AI市場調査】とは?生成AIで変わる調査のスピード・精度・コスト」にまとめています。
また、実際にローソン様の過去調査データを用いて精度検証を行った事例は「AIシミュレーション調査で、リサーチャーがより輝ける未来へ」でご紹介していますので、あわせてご覧ください。
まとめ:AIは商品開発の「仮説検証」を加速する相棒
商品開発・商品企画とAIの掛け合わせは、アイデア創出の自動化や効率化の数値ばかりが注目されがちなテーマです。しかし実務で本当に効いてくるのは、これまで時間とコストの制約で十分にできなかった「仮説検証」を、AIによってどれだけ高速化・高精度化できるかという視点だと私たちは考えています。
業界事例で語られる効果数値は、どの工程を対象にしたものか、出典は明確かを確認したうえで参考にすること。そして、AIが得意な領域と不得意な領域を理解したうえで使い分けること。この2点を押さえるだけでも、商品開発・商品企画へのAI活用の精度は大きく変わってきます。
私たちLaboro.AIが提供する「未来リサーチ」も、こうした仮説検証を高速化するための選択肢の1つです。商品開発・商品企画のスピードや精度に課題を感じている方は、未来リサーチのサービス詳細をのぞいてみていただければ幸いです。
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執筆者
Laboro.AI編集部
株式会社Laboro.AIの独自技術や最新のAIに関する情報をお届けします。
監修
執行役員CBO(最高ブランディング責任者) 和田 崇
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。